「はぁ・・・」
すっかり暗くなった道を歩きながら、僕は溜息を一つついた。
「とんだ転校初日だよ。」
独り言のようにそう呟いて、唇を噛む。
部活でも、先生にも、新しく出来た友達にも腹が立っていた。
挙句の果てに、白舌先生にまで体を撫で回され、危うく初めて(?)を奪われそうになった。
なんとか逃げるように生徒指導室を逃げ出し、今に至る。
腹立たしかった。
全てが腹立たしかった。
なんと言っても、ノーマルだと思っていたのに迂闊にも感じてしまっていた自分に一番憤りを覚えていた。
アパートに着いて、鍵を開けようとポケットを探っていた時にふと自分の部屋の電気がついていることに気がついた。
ノブを捻ると、かちゃ、と音がしてドアが開く。
おかしい。
鍵を閉めていたはずなのに、何で開いているのだろう…泥棒なのか?
身構えながら、中を覗き込む。
「お、兄貴!」
中には、知らない誰かが当然のような顔をしてテレビを見ていた。
「お前は、誰だ?」
なんでこんなに一日にいろんな厄介ごとが同時に起こるのだろうと、少しめまいを覚えつつやっとの事でそういった。
「あれ?聞いていないのかい?まるメンだよ。ほら、兄貴の弟の。」
「君が?確かオジサンのところに居たんじゃなかったっけ?」
「ああ…う、うん、まぁ色々あってさ。家出だよ、家出。家に戻ろうと思ったけど、親父もお袋も外国に行ってるんだって?なんとか聞き込んで兄貴が此処に居るって知って、大家さんに鍵をあけてもらったんだ。」
「なるほど、でも、僕には二人分の生活費も何もないぜ?どうするんだ?」
「ああ、其れは心配いらないよ、さっき両親と電話で話したら送ってくれるってさ。」
「あ、そうなんだ…それにしても、久しぶりだね。もう十年位か。」
「そうだね。…なんか疲れているみたいだけど大丈夫かい?」
「いや、今日は色々とあtt」
まて、俺。いきなりそんな弄られたとかいう話を聞いたらまずいだろ。
「いや、今日が転校初日でさ、少し疲れただけだよ。」
どもりながら、何とか言い繕う。
「それより、なんで家出なんかしたんだよ。」
「うん、ちょっとね、家出というか追い出されたって感じなんだよね。」
「そうなんだ。まぁ、いいや。とりあえず再会を祝してジュースでも飲むか。」
「おうっ!」
弟のまるメンとは幼い頃は仲が良くいつも一緒にいた。久しぶりに会ったとはいえ、まるで昨日もあったように楽な空気が漂う。
暫くの間、今日在った嫌なことをすっかり忘れていた。
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